消毒薬の種類

消毒薬の種類

消毒薬には様々な種類があります。
商品名がないので分かりにくいかもしれません。
薬局ではアルコールクリアジェルやポピドンうがい薬のような名前で販売されています。

どのようなものがあるかを以下に示します。
※ カッコの中は消毒薬固有の一般名です。

Aアルコール系
(消毒用エタノール、イソプロパノール)
詳細
Bヨウ素系
(ポピドンヨード、ヨードチンキ)
詳細
Cビグアナイド系
(クロルヘキシジングルコン酸塩)
詳細
D第4級アンモニウム塩系
(ベンザルコニウム塩化物)
詳細
E両性界面活性剤系
(アルキルジアミノエチルグリシン)
詳細
F塩素系
(次亜塩素酸ナトリウム、ジクロルイソシアヌール酸ナトリウム)
詳細
Gアルデヒド系
(グルタラール、フタラール)
詳細
H酸化剤系
(過酢酸、過酸化水素)
詳細
I電解酸性水
(強酸性水)
詳細

中にはご存知の名前もあったかもしれません。
これらの消毒薬は、生体に直接使用することができない危ないものもあります。
また消毒薬によって、ターゲットとなる相手(ウィルスや細菌など)が違います。これから、詳しく説明していきます。

A-1 : アルコール系消毒薬

皆さんご存知のアルコール系消毒薬です。
消毒薬は医薬品あるいは医薬部外品として国の認可を取得している消毒薬です。
当院では、消毒用のアルコールについても細菌・真菌・ウィルス等に最も適切・効果的な商品を使用し、充分な在庫を常に確保しております。

エタノール

一般名消毒用エタノール(76.9~81.4%)
適応手指・皮膚消毒、医療用具の消毒

イソプロパノール

一般名イソプロパノール(70%、50%)
適応手指・皮膚消毒、医療用具の消毒

配合アルコール

一般名イソプロパノール(18~23.6%)・メタノール変性アルコール(40~60%)
適応手指・皮膚消毒、医療用具の消毒
一般名エタノール(64.5%)・イソプロパノール(10.5%)
適応手指・皮膚消毒、医療用具の消毒
一般名エタノール・イソプロパノール・グリセリン
適応手指・皮膚消毒

アルコール含有消毒薬

一般名0.2%ベンザルコニウム塩化物/消毒用エタノール
0.2%クロルヘキシジングルコン酸塩/消毒用エタノール
0.5%クロルヘキシジングルコン酸塩/消毒用エタノール
0.5%ポピドンヨード/消毒用エタノール
適応手指消毒
一般名0.5%クロルヘキシジングルコン酸塩/消毒用エタノール
適応皮膚消毒、医療用具の消毒

アルコールだけで消毒薬にはこんなに沢山の種類があり、全て手指の消毒に使えるので安心です。
ご家庭で使用する際には、100円ショップなどで小さなハンドスプレーを買ってそれに消毒薬を入れておけば、持ち歩いて好きな時に使用できます。

A-2 : アルコール系消毒薬の特徴・詳細

特徴

一般細菌、結核菌、真菌、ウィルスに有効で広範囲の病原体に対し有効です。
しかし芽胞には無効です。糸状菌(水虫など)やエンベロープを持たないウィルス(ノロウィルスなど)には作用時間を長くする必要があります。

注意点

一般にイソプロパノールはエタノールより脂溶性(油への溶けやすさ)が高いため、皮膚への刺激が強いです。
アルコールはタンパク質を凝固させるため、内部まで浸透しません。
従ってバイオフィルム形成菌(尿路結石形成などに関与する菌など)に対し効果が弱いです。

※ バイオフィルムとは:細菌は増殖する過程で、代謝物を菌体外に出します。特にグリコカリックスと呼ばれる粘性多糖体は菌と菌を結び付け、菌体の周りに溜まり菌を保護する役割も有します。菌と菌の周りの多糖類で膜を作り、その膜をバイオフィルムと言います。身近なものでは、歯の周りに付いた歯垢、台所の流し台のぬめりなどです。医療現場で一番困るのは、尿道カテーテルや血管カテーテルにできたバイオフィルムです。抗生物質が届かないので感染の温床になります。

エタノールの短時間殺菌効果

Staphylococcus aureus(ブドウ球菌)、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)を各エタノール濃度に作用させた時に殺菌された菌株数。50%エタノールは30秒で全ての菌株に有効です。

菌種エタノールの濃度作用時間(分)
0.51234>5
S. aureus(7株)10%7
20%7
30%16
40%322
50%7
P. aeruginosa(9株)10%9
20%9
30%135
40%621
50%9

(数字は菌株数です。)

B : ヨウ素系消毒薬の特徴・詳細

ヨウ素系消毒薬は、下記の3種類に分かれています。
それぞれ医薬品として登録され、使用方法も決まっています。
当院では必要に応じて適切な使用を実施しています。

① ポピドンヨード

  • 原液(0.75%):手指消毒(スクラブ法)
  • 原液(10%):手術部位・創傷部位消毒(塗布)
  • 原液(10%;含有50%エタノール):手術部位消毒(塗布)
  • 原液(0.5%;含有消毒用エタノール):手指消毒(ラビング法)
  • 15~30倍希釈:口腔内消毒(うがい)

② ポロクサマーヨード

  • 原液(有効ヨウ素0.75%):手指消毒
  • 原液(有効ヨウ素1%):手術部位・創傷部位消毒
  • 原液(含有64%イソプロパノール):手術部位消毒

③ ヨードチンキ

  • 5~10倍希釈:皮膚消毒(塗布)

特徴

  • 一般細菌、真菌、ウィルスなど広範囲の病原体に対し有効です。結核菌などの細胞内寄生細菌にも有効です。
  • 手指、皮膚、口腔内に使える消毒薬です。

注意点

  • 有機物により不活化されるので、食べ物や血液の存在で消毒効果が無くなります。
  • 金属腐食性があります。
  • 酸性の洗浄・漂白剤と混合すると塩素ガスが発生し、危険です。

使用法と適応(ヨウ素系消毒薬)

一般名使用濃度適応
ポピドンヨード0.75 %(原液)手指消毒
10 %(原液)手術部位消毒創傷部位消毒
10 %(50 %エタノール含有)手術部位
15~30倍希釈 口腔消毒
ポロクサマーヨード有効ヨウ素0.75 %(原液)手指消毒
有効ヨウ素1 %(原液)手術部位消毒創傷部位消毒
原液(64 %イソプロパノール)手術部位消毒
ヨードチンキ5~10倍希釈採血部位消毒

C : ビグアナイド系消毒薬(クロルヘキシジングルコン酸塩)

ヒビテン消毒薬に該当し、一般名はクロルヘキシジングルコン酸塩です。

クロルヘキシジングルコン酸塩

以下の仕様があります。

  • 原液(5%):手指消毒(スクラブ法)
  • 0.05%:創傷部位消毒(塗布)
  • 0.1%~0.5%:医療用具の消毒(30分浸漬)
  • 0.2%(含有消毒用エタノール):手指消毒(ラビング)
  • 0.5%(含有消毒用エタノール):手指消毒(ラビング)、手術部位消毒(塗布)、医療用具の消毒(塗布)

特徴

  • 一般細菌・真菌に有効。芽胞、結核菌、ウィルスには無効(エタノールを含む場合は、結核菌と一部のウィルスにも有効)。
  • 手指消毒にはラビング剤とスクラブ剤があります。

注意点

  • 有機物があると効力が減弱します。
  • 石鹸類との混用は避けること。
  • 口腔、膀胱、膣などの粘膜には使用しないこと。

ビグアナイド系消毒薬(まとめ)

一般名使用濃度適応
クロルヘキシジングルコン酸塩原液(5%)手指消毒
0.05%創傷部位消毒
0.1%~0.5%医療用具消毒
0.2%(含有消毒用エタノール)手指消毒
0.5%(含有消毒用エタノール)

D : 第四級アンモニウム塩系消毒薬(ベンザルコニウム塩化物)

一般的には逆性石鹸と言われています。刺激性が弱いので、薬用化粧品の成分に含まれることも多いです。

ベンザルコニウム塩化物

以下の使用方法があります。

  • 0.01~0.025%:創傷部位消毒、粘膜消毒
  • 0.02~0.05%:膣洗浄
  • 0.05%~0.2%:家具・物品の消毒(塗布・清拭)
  • 0.1%:医療用具の消毒(30分浸漬)
  • 0.2%(消毒用エタノール含有):手指消毒(ラビング)

ベンゼトニウム塩化物

  • 0.01~0.025%:創傷部位消毒、粘膜消毒
  • 0.025%:膣洗浄
  • 0.05%~0.2%:家具・物品の消毒(塗布・清拭)
  • 0.1%:医療用具の消毒(30分浸漬)

特徴

  • 一般細菌・真菌に有効。芽胞、結核菌、ウィルスには無効。
  • 陽イオンを電離し、抗菌作用を示します。
  • 逆性石けん、陽性石けんと呼ばれます。

注意点

  • 有機物があると効力が減弱します。
  • 石鹸類との混用で効力は低下します。

第四級アンモニウム塩系消毒薬(まとめ)

一般名使用濃度適応
ベンザルコニウム塩化物0.2%(消毒用エタノール含有)手指消毒
0.01~0.025%粘膜消毒
0.1%医療用具の消毒
ベンゼトニウム塩化物0.01~0.025%粘膜消毒
0.1%医療用具の消毒

E : 両性界面活性剤系消毒薬(アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩)

当院では現在は使用していませんが、必要に応じて使用します。

アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩

以下の濃度で使用します。

  • 0.05~0.5%:医療用具の消毒、器具・物品の消毒

特徴

  • この消毒薬は陽イオン系(抗菌力)と陰イオン系(洗浄力)を有しています。
  • 細菌・真菌に有効。特に結核菌に対して用いられます。
  • 一般の医療用具の消毒には0.05%~0.2%が使用され、結核領域においては0.2~0.5%が使用されます。

注意点

  • 脱脂作用があるため、手指、皮膚消毒には適しません。

F : 塩素系消毒薬(次亜塩素酸ナトリウム、ジクロルイソシアヌール酸ナトリウム)

新型コロナウィルス対策で多く取り上げられた消毒薬です。
当院でもこの系統は有用性が高いので、多用しています。

次亜塩素酸ナトリウム

  • 1%:ウィルス汚染の床・排泄物
  • 0.05~0.1%:ウィルス汚染したリネン類・器具
  • 0.02%:食器・まな板

ジクロルイソシアヌール酸ナトリウム

  • 粉末・顆粒:ウィルス汚染の床

特徴

  • 細菌・真菌・ウィルスなどに対し、広域な抗微生物スペクトルを持っています。結核菌には有効ですが、芽胞には十分な効果が得られないことがあります。
  • エンベロープの有無に関わらず、ウィルスに効果があります。

注意点

  • 血液・排泄物・分泌物などの処理では手袋を使用して清拭します。
  • 床上のウィルス汚染血液などの処理は、消毒薬を注いで5分間以上放置した後にふき取ります。
  • 排泄物の処理には0.5~1%液を5分以上作用させます。
  • 金属腐食性があるため、金属製用具への使用はできません。
  • 低濃度では有機物によって効果がなくなります。
  • 酸性の洗浄・漂白剤等と混合すると塩素ガスが発生して危険です。酸性のものは使用禁止です。

塩素系消毒薬(まとめ)

一般名使用濃度適応
次亜塩素酸ナトリウム0.02%食器・まな板
0.05~0.1%ウィルス汚染したリネン類・器具
0.5~1%ウィルス汚染の床・排泄物
ジクロルイソシアヌール酸ナトリウム粉末・顆粒ウィルス汚染の床

G : アルデヒド系消毒薬(グルタラール、フタラール)

良く聞くホルマリンもこの系統の消毒薬です。
皆様もご存知の通りホルマリンは発がん性が指摘されているため、一般の診療では使用していません。

グルタラール(グルタールアルデヒド)

  • 2%、2.25%、3%、3.5%:内視鏡消毒、ウィルス汚染器具消毒

フタラール(オルトフタルアルデヒド)

  • 0.55%:内視鏡消毒、ウィルス汚染器具消毒

特徴

  • 一般細菌・結核菌・芽胞・真菌・ウィルスに対し、広域な抗微生物スペクトルを持っています。しかし、フタラールは芽胞に対して効果は劣っています。
  • グルタラールはアルカリ性で強い効果を持っていますが、安定性が悪くなります。
  • 血液など有機物が存在しても効果に変化はありません。
  • 古くはホルムアルデヒド(ホルマリン)が使用されていましたが、人体に有害なため、今は使用が禁止されています。

注意点

  • 細胞毒性が強いため生体には使用できません。
  • アルデヒドガスが発生するため、喚起の十分な部屋で使用します。
  • 室内噴霧や清拭には使用できません。

塩素系消毒薬(まとめ)

一般名使用濃度適応
グルタラール2%、2.25%、3%、3.5%内視鏡
フタラール0.55%内視鏡

H : 酸化剤系消毒薬(過酢酸、過酸化水素)

良く使うオキシドールもこの系統の消毒薬です。

過酢酸

  • 0.3%:内視鏡消毒

過酸化水素

  • 原液または2~3倍希釈:創傷消毒

特徴

  • 一般細菌・芽胞・結核菌・真菌・ウィルスに対し、広域な抗微生物スペクトルを持っています。
  • 過酢酸は短時間殺菌効果があり、5分以内で殺菌できます。
  • 過酸化水素は血液・体液中のカタラーゼにより、発生する酸素の泡に洗浄効果があります。
  • 2.5~3.5%過酸化水素はオキシドールと呼ばれ、創傷・潰瘍部位の消毒に使用されます。

注意点

  • 過酢酸は酢酸の刺激臭が強く、目や粘膜を刺激することがあります。
  • 過酢酸の使用時はマスク、ゴーグル、手袋、プラスチック製エプロンを着用します。
  • 過酢酸は天然ゴム、生ゴムを劣化させるため、使用出来ません。

酸化剤系消毒薬(まとめ)

一般名使用濃度適応
過酸化水素原液・2~3倍希釈創傷・潰瘍部位の消毒
2~10倍希釈口腔粘膜・洗口
過酢酸0.3%内視鏡

I : 電解酸性水(強酸性水)

大型機器を使うため当院では使用していません。
しかし、参考になると考え掲載しています。
強い除菌効果や高い安全性から食品添加物(殺菌料)として厚生労働省に認められています。
また、大規模施設向け製品があり、各種工場、老人施設、幼稚園・保育園、学校、病院等様々な業種で使用されています。

電解酸性水とは

  • 水道水に微量の食塩を加え、電気分解した時に得られるpH2.7以下の溶液をいい、強酸性水、超酸化水、アクア酸化水などとも呼ばれています。
  • 電解酸性水の殺菌作用の本体は、次亜塩素酸です。その濃度は7~50ppm(0.0007~0.005%)程度です。

特徴

  • グラム陽性菌、グラム陰性菌に有効ですが、有機物があると効果がなくなります。
  • 光・空気で分解されます。生成直後にシャワー式で使用するといいです。
  • 電解水の保存はガラス瓶に入れ、冷暗所での保存となります。

注意点

  • 水道水を使用しているため、体腔内や創部に使用するのは問題があります。